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東京高等裁判所 昭和39年(ラ)529号 決定 1965年3月05日

抗告人 藤田京子(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一、抗告人は「原決定を取消す。別紙記載の家屋の二分の一の共有持分を抗告人に分与する。」との決定を求めた。

抗告理由の要旨は、「原審の認定した事実からすれば、抗告人が被相続人中山花の特別縁故者に該ることは明らかであるから、その相続財産のうち、本件家屋の二分の一の共有持分を分与されて然るべきものである。」というにある。

二、当裁判所の判断

(一)  本件記録によれば次の事実が認められる。

本件家屋は、昭和二三年九月一六日に中山文吉が売買により所有権を取得し、その後同人は昭和三三年一二月六日に死亡し、同人の妻中山花と同人の父中山鉄一とが共同して相続し、各二分の一の持分による共有となつた。ところが昭和三六年二月一五日中山花が死亡し、その相続人が分明でなかつたので、昭和三七年三月一七日相続財産管理人が選任され、昭和三八年七月一日相続財産に対する債権の申出が催告され、同年一〇月三〇日に相続権者捜索の公告がなされたが、届け出る者がなく、昭和三九年五月一〇日に期間満了となつた。一方、中山鉄一は昭和三七年一月六日に死亡し、同人の有する本件家屋の二分の一の共有持分は、同人の子(中山文吉の兄弟姉妹にあたる。)である中山松吉、中山竹男、中山年男、中山芳男、本田ヒサノが均分して相続した。そして中山年男を除く四名は、昭和三七年五月頃から昭和三八年二月頃までに、それぞれ本件家屋の共有持分(一〇分の一)を抗告人に贈与した。

(二)  ところで、民法第二五五条によれば、共有者の一人が相続人なくして死亡したときは、その持分は共有者に帰属するものと定められており、そして他の共有者に帰属する時期は、被相続人死亡のときではなく、相続人の存在しないことが法律手続上確定したときと解すべきである。

従つて、さきに認定したように、中山花の相続人不在の確定した昭和三九年五月一〇日には、本件家屋について、抗告人が一〇分の四、中山年男が一〇分の一の各共有持分を有していたのであるから、民法第二五五条によつて、抗告人と中山年男とがそれぞれの持分に比例して-すなわち、四対一の割合で-他の共有者たる亡中山花の相続財産である本件家屋の持分一〇分の五を取得したものというべきである。これによつて昭和三九年五月一〇日より、本件家屋は、抗告人が一〇分の八(五分の四)、中山年男が一〇分の二(五分の一)の持分による共有となつた。

(三)  抗告人は、民法第九五八条の三によつて、特別縁故者として中山花の共有持分(本件家屋の二分の一)の全ての分与を請求している。しかしながら、民法第二五五条による共有持分の移転は、相続人の不在が確定したときに、法律によつて当然生ずるものであつて、その部分は特別縁故者への分与の対象とはならない。そして、(二)で説示したとおり、本件家屋は抗告人と中山年男との共有であるから、相続財産分与の申立は、その利益のない不適法な申立といわざるをえない。

三、よつて抗告人の申立を却下した原審判は、結論においては正当であるから、民事訴訟法第四一四条、第三八四条第三項に従い本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 毛利野富治郎 裁判官 平賀健太 裁判官 加藤隆司)

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